日本安全運転医療学会

運転と認知機能研究会

研究会発足の背景

 運転と認知機能研究会は認知症や高次脳機能障害を持つ人の診療やケア、心理的・社会的・工学的サポートに携わるさまざまな職種の専門家が、認知機能の観点から自動車運転の問題を考える「共通の場」として平成20年4月に発足した。この頃より、高齢者の関与する交通事故の報道が増加し、認知症や認知機能が低下していると考えられる高齢ドライバーへの対応が深刻な社会問題となってきていた。その対策として警察庁により研究会発足の前年に75歳以上の免許更新者に講習予備検査(認知機能検査)の導入が決定され、一定の条件で免許を更新できなくなるなど、認知機能の低下した高齢者の自動車運転についての制限が明らかとなった。しかし、講習予備検査は高齢者が引き起こす交通事故や運転適性との関連を検証されたうえで導入されたものではなく、その信頼性はまだ明らかではなかった。
 一方、身体障害を持つ人への自動車運転の支援はごく限られた施設において行われていたが、脳疾患による高次脳機能障害者の支援はその運転適性をどのように評価、判断するかの議論が十分されていないこともあり、ほとんど行われていなかった。また、高次脳機能障害は警察による適性検査では明らかにならないことも多く、危険な運転を行っている可能性がある者がいると考えられた。一方、運転適性があるにも関わらず本人の諦めや医療側の極端に保守的な意見に従って運転機会を失っている者も多いのではないかと推測された。
 しかし、当時このような自動車運転と認知機能を扱う学際的な研究会は存在しなかった。そこで以前から認知機能と運転についての研究に取り組んでいた昭和大学医学部精神科(当時)の三村將と、共同研究者で脳損傷者の運転適性を研究していたフリーランス作業療法士の藤田佳男、その指導教員であった筑波大学大学院リハビリテーションコース(当時)の飯島節により研究会が企画され、平成20年11月29日に第1回研究会が開催された。研究会の特別顧問および世話人は高次脳機能障害や認知症の分野で研究実績がある先生方にお引き受けいただいた。研究会の発足時の名称は「自動車運転と認知機能研究会」であったが、第1回世話人で自動車にだけに限定せず電動四輪車やその他の代替交通手段など様々な乗り物についても扱うべきという意見があり、「運転と認知機能研究会」に改称した。

研究会の趣旨と目的

 研究会が扱う諸問題の解決には医学、交通行政、運転教育それぞれの分野が自由に意見交換できる場が必要であると考えられた。それゆえ、できる限りオープンな会として職種などの制限を一切設けず、分野を超えた活発な議論を行うことで有用な提言を行うことを目的とした。具体的には、認知機能に問題がある人の運転適性をどのように評価していけばいいか、運転の是非の判断をどのような指針で行っていったらいいか、運転の継続や再開のためのリハビリテーションプログラムはどうしたらいいか、免許返納へのアプローチや社会的代替資源の利用などはどう進めればいいか、などについて自由に意見交換を行っている。研究会の最終目的は認知症や高次脳機能障害など、認知機能の低下している方が自動車運転を行う際に発生する諸問題を主な研究テーマとして、安全な交通社会の形成と高齢者・障害者の自立的な移動の促進を目指すことである。

文責:日本安全運転医療学会 更新日:2017年10月3日

PAGE TOP